ム月てんてんヒヒてんてん
幕1
すすけた掛け軸の前に置かれた、正月飾りのふやけたミカンのように、大きな大きな夕陽が、ゆっくりと沈んでいく。沈みながら下にある鏡餅をバキバキと音を立てて壊していく。乾燥して砕け散った餅は細かく飛び散りながら夕陽を浴び、埃っぽい白色から、紫がかったカビ色に変化し、ゆっくりとではあるが足早に闇の中に吸い込まれていく。
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幕2
子供たちの唄う声
「ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン、ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン♪」夕日にさよならをするような、夜のおとずれをからかうような、乾いた声が聞こえる。

幕3
山仕事を終えてたった今、家に帰った男が1人。
木戸を開けて室内に入ってきた。
ガラスの入った窓と、土間の片隅で、伏せた樽の上に置かれたプロパン用のガス炊飯器さえなければ、江戸時代の暮らしと変わりのないような民家の部屋。
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幕4
少し風が強い。カタカタと家のあちこちで音が聞こえる。
部屋の中は月明かりに照らされている。
男は照明をつけずに、リモコンでテレビのスイッチを入れた。
テレビからは台風情報が聞こえてくる。

幕5
画面一杯に日本と周辺地域の地図が表示され、台風の位置と大きさを表す白いウズマキがアニメーションでゆっくりと動いている。
アナウンサー「大型で勢力の強い台風は・・・」

家の外から子どもの唄う声が聞こえてくる。
「ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン、ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン♪」

幕6
男が窓をあけて声の聞こえてくるほうを見ると、小さな子供たちが数人で歌を唄いながら歩いている。どの子供の頭上にも小さな竜巻。竜巻は子供の飼い犬のようにきちんとした足取りで、子供の唄や歩みのリズムにテンポを合わせて移動している。
「ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン、ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン♪」
よくみると子供と竜巻から少し離れて、小さな黒い影が動いている。

幕7
男、つぶやく
「なにか、、」
突然、部屋の中でガサゴソと音がしたと。振り返ると、そこには小さな月の輪熊の子供が一頭。ほんの一瞬男と目があった。
月の輪熊の子供は勢いよく木戸に衝突し、木戸を壊して外に走り去っていった。

幕8
こわれた木戸ごしに、走り去る月の輪熊の子供の後ろすがたを見送る男。

遠くなったった唄声。
子供たちの小さな影とゆらゆらと動く竜巻。
そのまわりを付かず離れず歩いている月の輪熊の子供が数頭。
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幕9
頭上にはアンドロメダを思わせるような大きな台風。
台風の中央にはぽっかりと大きな穴が空いている。
そこから射した月の光が男の家を照らしている。

幕10
男はツッと涙を流した。
その涙がほほを伝わり、土間に吸い込まれる、その時、
大きな音と共に激しい雨が降り注ぐ。
雨の音にかき消されるように声が遠くなっていく。

ム〜月テンテン、ヒヒテンテ〜ン、ム〜月テンテン・・・・・・・


 (完)

本記事アップ翌日の9月4日、このお話に関連する猫路地区役所さんの不思議なエピソードにトラックバックしました。
さらに翌日、5日にささコボあぶくさんの記事にトラックバックしました。
なんか不思議な感じだよ。
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by hikosukeA | 2004-09-02 23:16 | ●オブジェ・イラストなど
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